定年退職するまでずっと仕事をしていた母親だったので母の料理を食べた記憶はほとんどないが、僕が小学校の頃から、珈琲だけは本格的なものを淹れてくれていた。
コーヒーメーカーはもとより、ペーパードリップでさえもあまり普及していなかった時代。
5杯立てくらいの大きなネルドドリップを使って深煎りで香り高い珈琲を淹れてくれていた。
時々、喫茶店にも連れていってくれた。
子供の僕には苦かったはずだが、そんな感じでボチボチとブラック珈琲を飲み出したのが中学校の頃だった。
大学生活は京都で4年間過ごしたが、そのうち3年間は家の前にあった喫茶店でアルバイトをした。
小さな喫茶店だったので、すべてを一人で回すことになる。おかげでコーヒーから料理から仕込みまでオーナーにいろいろ教えてもらった。
あの頃は、コーヒー専門店でもない限りコーヒーの一杯立ての店などは少なかった。
僕が働いていたお店もまとめて5杯分くらいをペーパードリップで落としたものを注文が入るとミルクパンで温めて出す方法だった。
年上のお兄さんやお姉さんの常連客の相手をしながら、いろいろ人生を教えてもらった気がする。
だからかな、今でもカフェはどことなく喫茶店のような人間臭い店を選んで通うことが多い。